メルセデス・ベンツに乗りたい!
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最善か、無か


「最善か、無か」・・。随分と過激な二元論だが、この哲学
をメルセデス・ベンツは徹底的に追求し、名車W124で具現
化した。

コストを一切無視し、世間に「オーバークオリティ」と言わしめ
る妥協なき作りは、到底日本のメーカーには成しえない所業
である。そもそも、1886年以来続く自動車の歴史はメルセデ
ス・ベンツ(ダイムラー)の歴史と言えるものだ。比較すること
自体愚かしいことなのかもしれない。

日本ではメルセデス・ベンツの人気は一向に衰えない。日本人
は世界で類を見ないほどのベンツ・好きドイツ車好きとも言わ
れる。確固たる思想に基づき、妥協を許さないクラフト・マンシ
ップは我々日本人の心を掴んで離さない。

クラフトマン・シップ・・・職人気質とでも訳せるのだろうか。
「職人」は日本でも尊敬に値する存在として扱われることが多く、
アジアの敗戦国に過ぎない日本が工業国として大きく成功した
理由の一つに、職人を尊ぶ風土を挙げても間違いではないだ
ろう。
今や世界的な大企業であるトヨタやヤマハの創始者、豊田佐吉
や山葉寅楠も職人の出身である。現在でも、主に製造業の最先
端技術は日本の中小企業の「職人」たちに支えられている。

職人というものはドイツでも当然存在し、その歴史は古い。中世
の封建制の産物である「ギルド」。西欧の都市では中世から近世
にかけ、職業別の組合が存在し、その中に手工業ギルドが存在
した。

当時は徒弟制度と呼ばれる厳格な身分制度が存在し、親方は
職人・徒弟を指導していた。そして親方がギルドに参加するので
ある。ギルド内では製品の品質、規格、価格などを厳しく統制し
て品質を維持し、雇用などについても管理されていた。

西欧の中でも特にドイツはギルドが長く存続しているため、決して
歴史上の1ページとして片付けられない。現代でも
ドイツ国内の社会制度に直接的な影響を及ぼしている。

翻って、日本での職人制度は江戸時代の封建制の元で発達した。
この時代は260年間も大きな戦争のない、日本で最も平和な
時代である。封建制の産物という点では共通であるが、ドイツ
とは事情は異なる。それでも、技術に信を置くという点では
共通であろう。

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100円ショップ、ディスカウントストアが乱立する一方で、ブラ
ンド品も飛ぶように売れている。
ブランド品を買う動機としては、主に三つが挙げられる。

(@)イメージを求めて
(A)道具としての信頼
(B)対象への愛

それぞれが相互補完的な面もあるのだが、単純化して考えてみる。

(@)としては、主にファッション関係が多い。要するに所有する
満足感、所有することで自分がワンランクあがったような錯覚を
求めること。
 あるいは、持つと一人前。あるいは、なんらかのグループ、
階級などへの所属感。
 劣等感や自信のなさ、社会的な地位の低さや過去の惨め
さを補うために求められることも多い。

(B)ステイタスなどにはさほど関心はないが、道具として一番い
いものが欲しい。
様々なものを試したが、これがベストであった。

(B)デザイン、性能などに惚れ込み、代用がきかない。
  理念に共鳴、または感動し代用がきかない。
  体験、実存などと深く結びついてもはや相対化できない。

一般の人間からはベンツと言えば(@)のイメージで見られるこ
とが多い。しかし、多少車を知っている者であれば(A)、
オーナーであれば(A)、(B)といったところだろう。
もっとも「よくわからないが格好がいいから」という理由でベンツ
を求めることも楽しみの一つであろうし、ベンツを求める動機は
様々である方が面白い。
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さて、いずれにしてもメルセデス・ベンツの確固としたブラン
ドに惹かれる者は多い。それは、職人気質に裏打ちされた技
術への安心感だけではないはずだ。安全に街を流すだけな
らレクサスでも良い。
職人気質なら日本もドイツに比べ全く引けを取らない。にもか
かわらず、日本車とベンツの間に感じられる大きな溝は何な
のだろうか。

それは、思想である。残念ながら、自動車作りに応用できるよ
うな思想は日本には存在しなかった。
もちろん、日本にも様々な思想はあるが、理性により曖昧さを
排除し構築していくという思想は全く存在しない。そもそもそう
いった発想自体が欧米のものであり、自動車という科学技術
の産物をむしろ日本の思想は否定する。

また、論理というルールのもとで検証しあうことが可能な欧米
の思想に比べ、日本のそれは言語や数式で表すことと相容
れない種類のものが
多い。圧倒的に不利である。その結果、何らかの思想を具現
化したような車は日本では生まれようがなかった。
ホンダやトヨタが成功したとしても、そこにあったものはせいぜ
い夢や野心や企業哲学だけであり、深みを求める方が間違っ
ている。


※ここで注意!!
このような書き方をすると、まるで日本が劣っていて欧米が優れて
いると主張していると誤解されてしまうかもしれません。もちろん違い
ます。私は生粋の日本人であり、愛国者であります。時代遅れの無条
件欧米礼賛の馬鹿ではありません。
しかし、「車作り」に関しては本稿での主張のままです。

                               (つづく)